ゼミ生向け研究アイデアまとめ

ゼミ生の研究・発表・卒論等のためのアイデアをざっくばらんに並べておきます。厳密な定義や細かな実験結果などは各自で出典をあたって、わからなければ聞いてください。ただし、どれも都合のいい部分だけを適当にかいつまんで使われやすいネタが多いので、文献調査の際にはその信憑性の評価に十分注意すること。

大半の文献は研究のために探したものなので、僕の最近の興味(多様性、熱中、飽き…)が色濃く出ています。一発屋的なネタが多いですが、まあ学部ゼミで1~2年やるネタとしては、研究価値がどうこうというよりはこんなおもろいこと調べたとか人に話せるようなテーマにしたほうが絶対にいいんですよね。

(他ゼミ・他大学の学生さん等が参考にしていただくのも特に構いませんが、ここに書いてある内容はゼミ活動の中でもう少し掘り下げて調べ直すことを前提として分かりやすさ優先で書いているものばかりです。つまり使うのであれば必ず元論文をあたってください)

バラエティ・シーキング(多様性追求行動, VS行動)

Variety Seeking(Kahn et al., 1986)とは、簡単にいえば多様(バラエティ)なモノを得たい/利用したいという気持ちに基づく行動。わかりやすい例として、バラ売りだとほとんど売れないデザインでも、バンドル販売だと「どうせなら色々な種類のものを買いたい」という気持ちから売れるようになるような話。参考例として靴下でその実験をした島田・小川・豊田(2003)では、店頭で1足ごとでは売れなかったデザインが、バンドル販売だと売れたという結果を報告している。このように、どうせなら色々なものを買いたいという欲求はかなり幅広い場面で起きることだろうと考えると、何らかの市場や面白そうな尺度を組み合わせたらいい研究になりそう。

→いつも言っているように、傾向とは全ての場合(人間/市場/状況…)に当てはまるものではない。僕にとって洗濯物から同じ柄の靴下を選び出すことは人生における最も無駄な時間のひとつなので、何足バンドルだろうがどの季節だろうが常に同じものしか買わない。

多様性と飽きの関係

人間は選択肢が多いことに嬉しさを感じるという点では、似たような研究として以下のようなものもある。多様性と飽きの早さの関係を扱ったものとして、Redden (2008) では、色々な味の混ざった状態のジェリービーンズをそのまま楽しんでもらうより、チェリー味、オレンジ味…とあらかじめ分けた上で楽しんでもらう方が飽きるのが遅くなったことを報告している。これは簡単にいえば、一目で種類の多さがわかる状態になっていた方が嬉しいとかっていう話だと思う。それは必然的に購買意図や支払意思額にも影響してくるはず。論文内ではspecificity effect(訳すなら”具体性効果”ってところかな)として紹介。

これも同様に応用範囲の広そうなネタなので、何らかの市場と面白そうな尺度を組み合わせたら研究になりそう。調査対象者を2群に分けて、片方には3種類、もう片方には10種類の味のお菓子が混ざった写真を提示して、それぞれに対して経験の満足度や支払意思額(WTP)を尺度で訊くみたいなだけでもそれらしいものができるかも。

ノベルティ・シーキング(新奇性追求行動)

こちらはVS行動のような種類の多さよりはNovelty = “新しさ” / 新奇性を求める傾向。好奇心旺盛といえば聞こえはいいが、飽きっぽくて興味の移り変わりが激しいと表現できる場合もある。さらにいえば、新しいものを探すことは必然的にリスクを取ることでもある。裏を返すと、レストランでいつも同じものばかり頼むのは「他のものを頼んで失敗したくない」というリスク回避行動(損失回避意識)の現れでもあるのかもしれない。ノベルティシーキングや損失回避などのネタと尺度を組み合わせたらこれもたぶん何らか面白い研究になる。

バラエティの高さと選択確率の問題

先日ゼミのOBと食事をしていたとき、店員さんが「デザートは5種類から選べます」と伝えにきた。まず5種類は結構な種類の多さ(バラエティの高さ)で、それ自体はバラエティ・シーキングの観点からも好評だろうなとは思った。

しかし、そこでデザート5種類のメニュー表が出てくるわけではなく、その5種類を「1つ目はバニラアイスの〜, 2つ目はオレンジのジュレ, 3つ目は〜…」と少し早口の口頭で伝えられ、その上でどれかを選ぶよう言われた。早口だったが頑張って聞き取ろうとした結果、誰も聞き返すことはなかった。その場には僕らのグループとして4人の客がいたが、全員の注文がほぼ最初か最後に集中した。

早口で伝えられることで真ん中あたりのデザートはしっかり印象に残らず選ばれる確率が下がるので、真ん中に原価率の高いメニューを入れているのではないかという結論に至った。これ自体がすぐ研究になるというよりは、いくつかの引っかかりポイントがあるといった感じ。

熱中と飽きやすさの関係

短期的に熱中することと飽きやすさには何かしらの関連があるようだ。たとえばゲームにおいて利用ペースを上げていくと飽きが早まるという結果が報告されている(Galak et al., 2013)。あるいは、単一の刺激に対しては、消費を遅くすることで飽きを感じにくくなるともいわれる (Galak et al., 2011)。要は、一回で消費しすぎるとすぐ飽きて習慣化しないんじゃないかっていう話。

同じ味のお菓子しかないならゆっくり提供したほうがいいのかもしれないし、スマホゲーにスタミナ機能とかついてて一回の時間でやりすぎないようになっているのはこれが原因かもしれない。知らんけど。

調査対象者を2群に分けて(まあ1群の中で複数条件試してもいいけど)、片方の写真ではお菓子が3種類、もう片方では10種類写っている写真を提示して、そこに対する興味の高さ、経験的な満足度、WTPとかを尺度で聞いたら研究になるかもね。

そもそも人間は”何”に飽きるのか?

Redden (2008) で紹介されている先行研究では、

・eating a food lowers the liking only for similar foods rather than all foods (Rolls, Rowe, and Rolls 1982) ⇔ あるものを食べた時に飽きるのは食品全体ではなく似たような特徴を持つ食品のみ。

・People especially satiate on the sensory features of an experience like flavor or color rather than on nonsensory features like caloric content or brand name (Inman 2001; Johnson and Vickers 1993).⇔ 人間は、カロリーの高さやブランドといった非感覚的な特徴よりは、香りや色といった「感覚的な特徴」に対して特に飽きを感じやすい。

などの先行研究があるっぽい。もう少し掘り下げたり、身の回りのネタで検証し直したりする価値はありそう。

BigFive尺度と購買・サービス利用行動の関係(1):スマホ依存

ある個人の性格特性を把握する方法の一つにBig Fiveがある。人間の性格特性は5つの要因:開放性、誠実性、外向性、協調性、神経症傾向に基づいているとしてその5要因を調査尺度から把握する(日本語版Big Five尺度としては和田 (1996) など)。

これを用いた研究として、スマホ・ネットへの中毒傾向はBigFiveのうち誠実性や神経症傾向と関係している(=誠実性スコアが低かったり神経症傾向スコアが高かったりするとスマホやネットへの中毒になりやすい)ことが指摘されている (Lachmann et al., 2019; Peterka-Bonetta et al., 2019)。

うちのゼミでの2022年度の研究テーマのひとつだった防災行動と性格特性の関係に関する研究もここに関連したネタですね。

またなんか思いついたら追記します。

出典

島田稔彦・小川孔輔・豊田裕貴(2003)「ユニクロのバンドル販売実験」日本マーケティング・サイエンス学会第74回大会

和田さゆり(1996)「性格特性用語を用いたBig Five尺度の作成」心理学研究67(1), 61-67.

Galak, Jeff, Justin Kruger, and George Loewenstein (2011) “Is variety the spice of life? It all depends on the rate of consumption,” Judgment and Decision Making, Forthcoming.

Galak, Jeff, Justin Kruger, and George Loewenstein (2013) “Slow down! Insensitivity to rate of consumption leads to avoidable satiation,” Journal of Consumer Research, Vol. 39, No. 5, pp. 993–1009.

Kahn, Barbara E, Manohar U Kalwani, and Donald G Morrison (1986) “Measuring variety-seeking and

reinforcement behaviors using panel data,” Journal of marketing research, Vol. 23, No. 2, pp. 89–100.

Lachmann, B., Duke, É., Sariyska, R., & Montag, C. (2019). Who’s addicted to the smartphone and/or the Internet?. Psychology of Popular Media Culture8(3), 182.

Peterka-Bonetta, J., Sindermann, C., Elhai, J. D., & Montag, C. (2019). Personality associations with smartphone and internet use disorder: A comparison study including links to impulsivity and social anxiety. Frontiers in public health7, 127.

Redden, J. P. (2008). Reducing satiation: The role of categorization level. Journal of Consumer Research34(5), 624-634.