バーコード決済と若者の受容

バーコード決済と若者の受容

人間は新しく出てきた製品・サービスの仕組みやメカニズムには興味を示すものの、自分が存在するより前から存在しているものにはあまり疑問を抱かない。俺らの世代はスマートスピーカーやSiriに話しかけるのにも人前ではちょっと…と思う人もいるし、もっと上の世代だとそもそもSiriに話しかけること自体馬鹿みたいな行為だと感じている人もいる。しかし一方で、生まれた時から家にAlexaがいてくれている子供達からすると、彼女は話しかければ当たり前に反応してくれる存在であり、ある意味ではペットと大差がない。必然的に彼女に話しかけることには何の疑問も抱かない。電話回線でおもしろフラッシュを見ていた我々にとってWi-Fiの普及は感動的だが、下の世代からすればWi-Fiなどあって当たり前のものだ。我々がエアコンを当たり前の設備だと思っているのと全く同じように。

こうやって文化や常識などというものはいとも簡単に変わっていくわけだが、ここで僕が絶望していることが一つある。それは4年ゼミの卒論執筆の過程で学生たちにキャッシュレス決済に関するアンケートを取ったところ、なんと学生たちが「バーコード決済の画面を開くことを面倒だとは感じていない」という結果が出てしまったことだ。マーケティング・リサーチの観点で言えばこれにはもちろん選択バイアスの問題はあるにせよ、割と細かくデータをとって多面的に確認した結果であり、少なくともそういうセグメントが世の中に一定数存在しているという事実は見えてきてしまった。

クレジットカードを持つよりも先にPayPay+銀行口座連携を手に入れてしまった彼らにとって、バーコード決済の参照点は現金決済になる。現金を出すよりはバーコード決済の方が確実に楽なので、必然的にバーコード決済の評価は上がり「PayPayは便利」とか言い出すようになる。一方で我々世代の参照点はICを搭載した非接触のクレジットカード決済やiPhone上でそのまま使えるモバイルSuicaであり、それと比べるとバーコード決済は確実に「一手間増える面倒な決済手段」に他ならない。そこまでに自分が使い慣れた決済手段に基づく参照点が世代ごとに異なることにより、世代ごとの評価が大きく断絶する。そして今の若い世代への普及によって将来的な文化が決定づけられる。

中国でバーコード決済に基づくキャッシュレスがかなり普及していることを根拠に日本でも大金をはたいてバーコード決済を普及させようとしているが、一方の中国では現在大金をはたいてバーコード決済から顔認証決済に移行しようとしている。

バーコード決済推進派の人たちはよく「モバイルSuicaでは送金や割り勘ができない」というが、PayPayやLINE Payで飲み会の割り勘をやっている人たちがどれだけいるのかは極めて疑問だし、そもそも送金や割り勘という個別の機能に関するトピックは決済手段とは別で議論すべきだ。

AppleもApple Cardで金融に手を出し始めたことだし、日本でも早くApple Pay Cashで簡単に送金できるようになってほしい。まあその分だけ詐欺も横行するんだろうけど。