マルファン症候群と大動脈解離のリスクの話

前回の投稿で「身体を壊さない限り」というフラグを立てたらちゃんと回収してしまい、見事にぶっ壊れた。おかげで生活にめちゃくちゃ重い制限がかかった。やはり誰しもが、若さを犠牲にした無茶な動き方はすべきではないし、特に俺みたいな身体の人間のやっていいことではないようだった。

おかげで先週も病院、今週は大きな検査のために週3回も病院、来週も病院、再来週も病院。4月末からはもはや病院に住み込む勢い。昔誰かが言っていたけど、やはりマルファン症候群というのは30歳あたりで身体がみるみる動かなくなっていく。それは本当らしかった。純粋に自分の体感だけでいうなら、若い(幼い)うちから10年おきぐらいの間隔でとんでもなく面倒な手術をしなければいけない以外はギリギリ普通に生活できる、って感じかな。


以下に書いてあることは、研究者とはいえ医学からは程遠い非専門家の私が、自分の症状と照らし合わせながら勝手に論文を読んでまとめていることであり、みなさんやその周りのマルファン症候群あるいは大動脈解離のリスクを抱えている方々に当てはまるかといわれたら極めて疑わしいです。専門家たる主治医の先生よりネットの情報を優先するような愚かしいことはせず、先生の説明で納得できないのであればセカンドオピニオンを活用してください。経験ぐらいならお話ししますが、僕に意見を求めてくるのはやめてください。

そもそもマルファン症候群というのは遺伝子疾患(より正確には常染色体の遺伝子フィブリリン-1(FBN1)の変異により中膜のミクロフィブリルが不安定化、全身の結合組織が脆弱化[1]、という表現になるのかな)で骨格、水晶体、心臓血管などに症状が出るわけだ。骨格系にはたとえば骨の過成長という症状があるが、ここ1年ぐらいでまた身長が結構伸びてしまい、ついに立ち上がるたびに毎回腰痛を食らうようになった。普通はここで筋トレなり運動なりを行うことで腹筋/背筋を鍛えて骨を支えるに足る筋量を担保することが求められるわけだが、マルファンが面倒なのは、あんまり運動が許されないんですね。たとえば俺も先月から10年ぶりに運動が全面禁止になってしまった。これはひとえに、筋トレなんかは基本的に踏ん張るタイミングで血圧が上がるわけで、マルファンの人間は血圧が上がると大動脈解離が起きるわけです。

大動脈解離のリスクというのは誰にでもあることで、まあ大体が高血圧と動脈硬化に起因して発生リスクが高まるわけですが、マルファン症候群の場合は結合織の脆弱性によって元から(僕の場合は7歳から)発生リスクがかなり高くなる。

一般的に大動脈解離は死ぬほど痛いと言われますが、なぜその痛みが発生するかといえば、その定義が「大動脈壁が中膜のレベルで2層に剥離し,大動脈の走行に沿ってある長さをもち2腔になった状態」[1]であることからも分かるように、血管の壁が2つに裂けるわけですね。そして血液がその壁をどんどん裂きながら進むことで、その裂けるときに強烈な痛みが走るわけです。

発生の平均年齢は基本的にはかなり高い(少なくとも本来ぼくはそんなに心配するような年齢ではない)のだけれど、一方でそれはあくまで平均年齢の話であり、実際若年でも発生する。。特に遺伝性結合織疾患、それこそマルファンに限っていえば「若年発症の原因としてよく知られている」[1]というぐらいには身近な症状になる。

大動脈の、大動脈弁のすぐ上にあるのがバルサルバ洞で、マルファンでは結構ここが危ない。「年間5mm以上の進行ペースか、6cm以上の拡大」[3]でバルサルバ洞動脈瘤(A sinus of valsalva aneurysm, SOVA)の手術適応が検討されるわけだけど、ぼくの場合は先月測った時点で49mm、去年は42mmぐらいだったはずなのでこれはもう立派にレッドゾーンなんですね。死ぬのはいいけど痛いのは嫌ですね。

論文30本ぐらい読んだので本当は手術の種類とかそれぞれの利点/欠点まで書きたいんだけど、あまりにも不確定な情報をネットに流すのもどうかなといったところでとりあえずこの辺にしておこうと思う。

大学教員として、そろそろ日本マルファン協会とか入ろうかな。自分のスキルを役立てられる場所に行かないと。

参考文献等

[1] 一般社団法人日本循環器学会(2020)大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2020年改訂版)

[2] 小児慢性特定疾病情報センター (2014) 大動脈瘤(バルサルバ(Valsalva)洞動脈瘤を除く。)https://www.shouman.jp/disease/details/04_59_081/

[3] 日本心臓財団 (2012) 疾患別解説 バルサルバ洞拡大の手術適応 https://www.jhf.or.jp/check/opinion/7/post_39.html