アルバム”the Alliance”リリース

僕が全曲楽曲提供した、和歌山のラッパーNNC(ナナシ)さんのアルバム”the Alliance”が出ました。NNCさんのとは書いていますが、トータルプロデュースとしてクレジットしていただいているため、正確にはジョイントアルバムになるのかな。僕の名前がちゃんと入ったアルバムが世に出るのは5年ぶりぐらいじゃないかな。

All Producedというだけあって、実際単なるビートの制作・提供だけではなく、楽曲のミキシングやマスタリングといったエンジニアリングのプロセス、さらにはジャケットのデザインやMV制作、広告戦略、さらには配信の手配などの流通まで、何もかも僕がやっています。現状YouTubeが引くほど回ってないのでいくつか新しい手を打っている状態ですが、とはいっても実はSpotifyが地味に回ってるので問題なかったりもする。

1. このタッグについて

NNCさんとは、2018年僕がまだ東京に住んでいた頃に一緒に音楽をやり始めて、5年でかれこれ20曲ぐらいは作ったんじゃないだろうか。お互いこれ以外にも色々なプロジェクトを抱えながらの活動だったから、それを考えるとかなり早いペースでやってきたんじゃなかろうか。

そしてここで驚くべきは、実は僕ら2人はまだ1度しか顔を合わせたことがないということなんだな。彼は和歌山に住んでいるし、僕はその後すぐ名古屋に移っていて、そして名古屋と和歌山は外の人々が思うより遥かに遠い。

2021年ぐらいにNNCさんが1回名古屋のイベントに呼ばれた際に、バックDJというかサイドというかそんな役回りでなんとなく遊びにいって数時間だけお会いしただけだし、そんな感じでありながら17曲入りのアルバムを作るまでの関係性を続けられたのは素晴らしいことだと思う。

楽曲について

このアルバムに入っている曲は、僕が気が向いた時に作ったビートの中から好きなものを選んで自由に制作してもらったりとか、あるいはNNCさんからリクエストがあってビートを作ったりとか、そんな感じでなんとなく始まったものがほとんどなのだけれど、それをどこかのタイミングでアルバムにでもまとめようとはずっと話していた。しかし一向に区切りがつかないまま17曲入りになってしまった。なかには他の人の楽曲がベースになったRemixだったり、あるいはNNCさんがすでに別の人のビートで作っていた楽曲を僕が再構成したりといった形で制作されたものもある。

僕はヒップホップのなかでもTRAPSOULと呼ばれるジャンル(このアルバムでいうとNight Diverとか)あるいはオールドスクールなBoombapビート(MoistureやReturn to Originなど)を作るのが得意なんだけど、全体を俯瞰すると意外と特定のジャンルに特化した感じではなく、好きなものをどかどか詰め込んだ雑煮みたいなものになった。

正直、もう少しDrillやPhonkまで手を出すつもりだったのだけれど、一旦アルバムを出してしまうことの方が重要だと判断した。これからまた新しいサブジャンルにも手を出していきたい。最近またJersey Clubとかも流行り始めてることだし。

客演としては、ずっとお世話になってきたラッパーTA-TIさんを呼んでいる。思えば僕の作ったビートが初めてタワーレコードに並んだのも、彼のアルバムとしてだった。

 

今後の展開について

実はこのアルバムは全くの制作途中の状態で公開されていて、10曲ぐらい追加で作る予定が既に入っているんですよね。しかも今後はフィジカルとして物理的なCDを作る予定になっているんだけど、それにあたっては絶対に曲数を絞らなければいけない。正直一部の曲は明らかに質が低いと思っていて、新規でできた曲と合わせた上で厳選した10曲程度をフィジカルにまとめるくらいを目指すべきなんだろうと思う。

30代の趣味としての音楽

30代になると、仕事も家庭もかなり忙しくなってくる。正直、家庭と仕事を両立した状態でさらに趣味を続けるためには、ある程度自分が裁量をもって働ける仕事か、あるいは自分のそれ以外の時間(主に睡眠)を削れる精神力(もっと直接的に表現するなら寿命を削る気概)が必要になる。僕には家庭がなく、あと根本的な睡眠時間が短いから今の状態ができているんじゃないかと思っているし、そこで普通の人が30代から趣味として音楽制作を始めるというのは正直なところお勧めはできないなと思ってしまう。そして本当にやりたければ勝手に始めてるだろうしね。

たとえば周りにビートメイカーやミックスできるエンジニアがいて、自分はリリック書いて録るだけでいいぐらいの環境があると全然違うけどね。そうじゃなければおとなしくゴルフを始めることをお勧めしたい。周りのはまり方をみてると、ゴルフもなかなか奥が深いみたいだし。

マーケティング / データサイエンス分野の研究者として思うこと

これはマーケティング的な問題意識でもあることなんだけれども、現代のアマチュア芸術作品は、その制作・公開のプロセスのなかでいかに多くの人間を巻き込めるかが最終的な作品の広まり方を決めるみたいなところがあって、全てを自分でやるということは(何もかもを自分のコントロール下に置ける代償として)制作への他者の関与を最小限に抑えることになるので、結果としてエンゲージメントの規模も小さくまとまってしまうことが割と多い。

あるいはネットワーク分析なんていったら大層なものに感じるけど、もっと普通に言い方をすれば規模の経済(スケールメリット)みたいなものでもある。異なる人間である以上は全ての知り合いや親近者の顔ぶれが完全に一致することはありえないので、製作者ノードが増えた場合、それぞれの製作者ノードが正しくネットワーク上に告知を流していけば接触する新規リスナーノードは(どれだけ少ないとしても)必ず増えることになる。少なくとも、1人が30日にわたって告知を行うより、30人が1日だけ告知を行う方が広まりは大きい。

そうやって新規に接触するノードが増えることにどこまで意義があるのかといえば、これも簡単な話で、作品を聞いて気に入ってもらえる確率が一定なのだとすれば(なおかつ低いのだとすればなおさら)、試行回数としてのインプレッションを増やすしかない。結局のところ、あらゆることは確率と試行回数で決まる。