ETFになってもインフラにはなれない仮想通貨の話

BTCのETFが上場するかどうかの瀬戸際で、仮想通貨全般がバブル的に高騰している。僕も仮想通貨取引自体はもう10年近くやっているけど、残念ながらというか相も変わらずというか、仮想通貨が高騰するのは市場がそこに投機的機会を見出した時だけである。世の中ではパー券で裏金がどうこうなどと言っているそばで、特に何の役にも立たないままにETF上場で「なんか儲かりそう」と仮想通貨が高騰していく様子を眺めているのは本当に悲しい。俺は聞き流していた側だったけど、あの頃俺に対して熱心に「銀行はなくなる!」とか吹聴してたテック界隈の人たち、恥ずかしくないんですかね。あんま適当なポジショントークばっかしてると直接聞きに行くからな。

とはいえ記録や保存っていうのはどうしてもバックエンド側の技術だから、たとえば今だってメルカリがクラウド基盤としてAWSを使ってようがGCPを使ってようが別に消費者には関係ないんだよね。従来のRDBだろうがイーサのオンチェーンだろうがちゃんと使えればユーザーにはどっちでもいい。そして改竄不可能性という観点でも、まともなガバナンスの効いた組織ならデータを改竄するとは考えにくいし、一方で本当にやばいところならブロックチェーンを採用していようがオンチェーンに記録する前に改竄する。そう考えると問題の根幹はブロックチェーンの社会実装だけでは実はあまり変わらないのかもしれない。

路線ネットワークを利用するためには駅のターミナルに行く必要があるのと同様に、いくら非中央集権的にシステムを組んだとしても、そこにアクセスするためには人間が利用できる環境が整備された端末(ターミナル)が必要になる。うちの大学でも僕の関わっている『データサイエンス・AI入門』という科目では履修証明をオンチェーンに乗せていて、「大学が潰れても履修証明はできる」なんて言ってるけど、仮に30年後ブロックチェーンが生きていてもその履修証明を参照するアプリが滅んでいないという保証はどこにもない。

どこまで行っても人間とネットワークを直に接続することはできないので、その間を繋ぐ端末部分にテックジャイアントなりが生まれる可能性はあるし、また同様にバグが生まれるとしたらそこなわけだ。現に、CoincheckだろうがOpenSeaだろうが、仮想通貨(あるいはそれに類するもの)が盗まれるポイントになるのはいつだってそこの部分なわけで。もっといえば、「脳を直接繋ぐ」って言ったってそれすら実際には何かしらのインターフェイスを経由するという意味では直接ではないわけで、やはりターミナルが必要なことに変わりはない。もしイーロン・マスクのNeurolinkで脳とインターネットがつながったとしても、Neurolinkがなくなったら終わり。ぼくらにはいつだってmediumが必要なんだ。

海外の弱小通貨の国家が仮想通貨を法定通貨に採用するのは別にドル使えばいいでしょってぐらいの話なので正直どうでもいいかな。いまのボラティリティで法定通貨にしたらどっちみち物価が不安定すぎて国内経済は終わると思うけど、そうやっていろんなところの利用と紐づけていくことによって将来的にはボラも安定していくのかもしれないな。