めくるめくスキンケアの世界 – ターンオーバー篇

しかしながら、イギリスあたりでもうマスクなしに出歩いてる人もいることを考えると、ワクチンの供給遅れがいかに国益を損なっているかがわかるというもので、これはもしかすると先進国でいつまでもコロナに苦しんでるのは日本だけになるっていうことすらあるんじゃないかと思ってしまう。

たとえば東京の1泊1500円の汚い宿でその場で出会ったわけわかんない奴らと酒飲みながら一晩騒ぐみたいなタイプの旅はそろそろつらくなってくる。コロナで若さが浪費されている。

なるべく科学的に検証されていることを中心に行動するように心がけているんだけど、とはいえ世の中にはまだだいぶ非科学的なことが多い。特に美容とか健康に関する非科学的な情報の蔓延には本当にすごいものがあって、俺がひとたび身体が悪いなんて言えば多くの人からありがたいご指導をいただくことになる。そしてお勧めされたお洒落なパッケージの化粧品や健康食品には、時にいやどう考えても嘘だろみたいなことが平気で書いてあったりする。もちろん薬事法に抵触しないよう細心の注意を払った表現にはなっているものの、大半の人はそんなことは気にしていないので高い有効性があるような表現になっている。

バキバキの不眠症で肌がやばいのでいろんな人にいろんなことを教えてもらうのだが、いま最もわからないこととして、スキンケア業界ではよく「肌のターンオーバーを促進することでハリのあるお肌を維持しよう!」みたいなことが言われる。しかしこれは本当なのだろうか。

よくわからないなりに調べてみると、ターンオーバーというのは”古い肌”を排出して新しい細胞と入れ替えることで、つまり、表皮幹細胞から新しい表皮角化細胞を生み出し、その代わりに既に存在する古くなった細胞(角質)を排出することをいっているのだと思う。

一般的なターンオーバーは6週間周期だの28日周期だの色々いわれているが、たとえばサクッと調べただけではあるものの(かなり古い文献だけど)ポーラ研究所の橿渕ら(1993)によればターンオーバーは最も短い周期の頬で平均10.1日だという結果も出ている。真皮幹細胞の発見が次の文献にもある通り2001年であることを考えるとこの辺の言及には注意が必要ではあるが。

資生堂リサーチセンターの高橋(2000)では「ドライスキンではターンオーバーが亢進」することも示されているし、関係ないけど「肌荒れ時には角層のターンオーバーが亢進し, 不全角化」、つまり有核細胞が角層の中に残留しているのが確認されることから、肌の有核細胞の残存率から肌荒れの程度を推定できるというのが極めて興味深い。この辺も今の肌年齢の計測とかに使われている技術なんだろうと思う。

ここで、肌荒れや乾燥肌によって角層のターンオーバーが大きく進むということは、逆にいうとターンオーバーをあまり促進させすぎるのは必ずしも良いことではないのではないのかという話になってくる。肌荒れを治すためにターンオーバーが過剰に進んでいるんだとしたら、むしろ原因たる肌荒れを抑えてでもターンーバーの周期を正常化する方が正しい気がしてくる。

考えなければいけないこととして、そこらへんで好き勝手に言われている「ターンオーバーを促進する」というのが、「肌のターンオーバーは一定周期で繰り返されるので、ちゃんと肌に溜まった老廃物を外に出しましょう」(=一般的なターンオーバーのサイクルを崩さないように身体の調子を整えましょう)ということなのか、それとも「ターンオーバーの周期自体を早めましょう」(=古い角層はどんどん排出していきましょう)ということなのか、それによって意味合いが全く変わってくる。これが万が一後者だった場合、とてつもなくわからないことが出てくる。

そもそも幹細胞というのは(幹細胞全般について言及するのは危険な気がするが少なくとも造血幹細胞に関していえば)、基本的には増殖を繰り返す中で細胞老化が起き、それによって増殖能が低下していくことは広く知られている。皮膚に関しても同様に細胞老化の研究は進められていて(たとえばAMEDの加齢と皮膚幹細胞の糖鎖の関係や、資生堂の加齢と真皮幹細胞の成長因子数の減少)、そう考えると、安易に短期的なターンオーバー自体を促進しその周期を早めることは、長期的には肌の老化を早めることなのではないのかという疑問が拭えなくなる。

もちろんここで「加齢による」といっているのが本当に純粋に加齢に伴うバイオマーカーのようなものなのか、それとも細胞の増殖回数なのかによって話は変わってくるが。面白そうなのでもう引き続き調べてみることにする。

参考

橿渕・松原・北田・鈴木啓之. (1993). 角層ターンオーバー速度のコントロールによる肌あれの新しい改善方法日本化粧品技術者会誌27(3), 383-393.

高橋 (2000). 肌の生理測定と化粧品有用性評価への応用日本化粧品技術者会誌34(1), 5-24.

内藤 (2008). 真皮幹細胞を利用した皮膚の若返り治療コスメトロジー研究報告16, 59-61.

こんな感じで、なるべく科学的態度を保って生きていきたい。そしてこういう専門的なことはもっと専門家に訊きにいけるようになりたい。

こうやって身体がボロボロながら頑張って正しい生き方を模索しているので、3ヶ月に1回ぐらいどこからともなく現れる「原始時代には野菜なしでも生きていられたんだから野菜なんか食わなくてもいい」みたいなのは本当にやめて。この身体で原始時代の生活と技術水準に合わせたら平気で半年とかで死ぬだろ。

まあとにかく、僕は科学技術の進歩と経済発展がもたらす可能性というものを信じているんですよ。早く論文書かないとな。