ぐだぐだ音楽のことを考える時間

「ギターソロを飛ばす」という音楽の聴き方が話題になっている。

EDMと音楽

ただEDM以降、日本にもインスト部分でノるというカルチャー自体は(それなりには)根付いたように思う。相変わらずK-POPなどはサビにTrapやFuture Bassを取り入れた楽曲を盛んにリリースしている。

当初EDMは(目にも明らかに)フェスのための音楽だったわけで、ではコロナ時代になりしばらくフェスが開催できなかった間にそれが廃れたかといわれると、実際のところあの類の音楽はダンスや派手な映像と相性が良いので、おうちじかんのコンテンツとしてちょうど良い楽曲に仕上がるのであった。個人的には、単純に楽曲の速さとしてBPM70-90程度であること(実際には倍速で取るだろうが)、あるいはその根底にあるヒップホップ的なノリが踊りやすさにマッチしやすいという点が、4つ打ちよりTRAPをこれらの楽曲のメインストリームに引っ張りだした所以なのではないかとなんとなく考えている。

僕は、Dubstepが体系化させた曲の展開やベースの音色と、Trapが体系化させたサブベース(特には808を基盤とした音作り)や上ネタの使い方、これらがEDMにうまく吸収されていまのFuture Bass(Bass Trapと呼ばれる場合もあるように思うが)に昇華されたと信じている。実際ダブステとトラップは全然違う音楽だが、相変わらず金を稼ぐ人たちは良いとこ取りが上手い。EDMの最大の功罪はダブステとトラップの名前ばかりを広めてその差すら聞き分けられない耳を量産したことだと思う。海外のQ&Aサイトでも漁れば山ほどそういう質問が出てくる。

打ち込み音楽に求められる要素

相変わらず日本は世界から乖離しているが、世界的には明らかにバンドより打ち込み(トラックメイキング)の方が流行っているという現実のなかで重要になる点といえば、まずもって「演奏技術が問題ではなくなる」ことだ。もちろんただ打ち込むだけで生演奏のような質感を出すことは到底無理だが、そもそもトラックメイクにおいて生感はあまり求められていないと思う。何より、必要であれば我々はサンプリングするのだ(世の中には”権利的にクリアなサンプリング素材”というものが山ほどある)。

仮に生音を使うとしても、たとえばネタ元の素材からのチョップ&フリップで十分にそれらしい楽曲は作れる。そこでの音の再構成に求められるのはヒップホップ的なノリであり、「生演奏では実現できない音の鳴り方である」という批判は通用しない。ピアノの逆再生が生演奏されることは永遠にないだろう。

たとえばずいぶん古い例を出すと、フローライダーのGDFR (feat. Sage the Gemini & Lookas)なんかは当時のトラップとしてすごく良いと思うが、Drop部分の音は下で808を鳴らしつつ上でチョップしたサックスの音をタイミングよく鳴らしているだけだ。

Flo Rida – GDFR ft. Sage The Gemini and Lookas [Official Video]

https://www.youtube.com/watch?v=F8Cg572dafQ

前にも書いた気がするけど、MONSTA XのHEROを聴いた時にまずGDFRが思い浮かんだ。

それがつい2年前にはこうなる。

Matt Rysen & Pyrelight – We Don’t Care

馬鹿ほどかっこいいなこれ。どこかで聞いたんだけどどこだったか忘れてしまった。クラブで誰かがかけてたんだったかなあ。

しかしこの曲にしてもそうなんだけど、こういったFuture BassあたりのDropで使われるメロディなんていうのは本当にシンプルで、条件は「垢抜けた派手なメロディ」を「特徴的な音色」で鳴らすことだけなのだ。この曲もそうだけど、笛系の音は印象的に聞こえる。ブラピンのWhistleなんかもそう。

逆にいうと、ギターソロのように演奏技術を見せつける場はDJやトラックメイクにはないし、別に求められてもいないのだ。本当にスクラッチか2枚使いの時ぐらいしかない。

ポップミュージックのパラダイム

個人的には、小学生の子供が髪を編み込んでヒップホップダンスをやり、若者が道端や大学のキャンパス内でスピーカーでビートを流してラップしている時代に、いつまでもロックとブルースの幻影に囚われたような言明をひけらかすのはあまりお勧めできないなと思ってしまう。

どこでロックからパラダイムが移ったのかは知らない。なぜなら俺はもともとロックは通っていないから。

とはいえ、そもそもここ十数年にわたっては、社会的抑圧への抵抗の役割を”あの”商業的なロックが担っていたようにも思えない。まあ前にも書いたように、ここからヒップホップもロックを見習って死に向かっていくのだが。

最後にちょっとヒップホップの話

自らのヒップホップ的なアイデンティティに「ストリート」を挙げる人は一定数いる。先日RihannaとA$AP Rockyの間に子供が生まれたりしたけど、もし2人の子供がラップを始めたらみんなきっとヒップホップ/R&Bの英才教育だって騒ぎ立てるんだと思う。ヒップホップはストリートじゃないとって騒いでた人も一緒になって騒ぐ。ストリートとは程遠いところにいるのにね。

リアルっていう点でいえばUSのネタではYoung ThungがYSLごと引っ張られたことが一番悲しい。アトランタは行ったことないけど、本当にああいう感じなんだなあ。